結婚式のあいさつで「糸」にこだわってみた。糸へんに半と書いて「絆」。半分をどう考えるかでお互いのひっぱりあいと考えると、おもしろい。「ひと声」という国語の教材があった。この中で、母馬がどうあがいても抜け出せないぬかるみから多くの人の力で助け出される場面がある。人間が力をあわせて引き上げる時、「ひひん」という仔馬の一声が母馬に力を与えたという箇所がある。「絆」という漢字にぴったりの場面だ。指導される先生が黒板に「絆」と書かれた感動的な授業を思い出す。結婚式のあいさつでは夫婦のきずなはお互いの声掛けからできあがると語った。
それに続けて、糸へんを使う「縁」を取り上げた。豚の頭の垂れ下がっている様子を表すつくりをつけて、垂れ下がるふちを示す漢字である。それから何かのふちの部分を「縁」という。糸へんがあるので、この字はつながりを表す文字となり、「えにし」という読みもある。そこで、ふたりの縁に連なる人々という話で結婚式のギャラリ-の役割を語った。絆を強めていくのを、ギャラリ-の仕事にしてほしいという話だ。「絆」に「縁」にどちらも今日のふたりの糸にかかわる話である。「縦の糸はあなた、横の糸はわたし 織りなす布はいつかだれかを温める」の歌を連想する。結婚式で「最後は」といえないので、結婚式の「結」を使い、糸へんに吉と結びの話をはじめる。「一重二重、七重八重にめでたく、ふたり縁の糸を結びまして、皆様のお幸せを祈り、私の話も結びます。」と…
このように、漢字は実におもしろい。甲南中の進路学習の講話では、「母という字は舟という字に似ている」と考えた詩人の発想を問題にした。「母は舟の一族かもしれない」と考える根拠を生徒に尋ねると、予想通り「形が似ている」と答える。詩は「こころもち傾いているのはどんな荷物をかかえているのだろうか。」と続く。形にこだわりながら中身を考えてみるという視点がおもしろい。舟も母も積んでいる荷物は見えない。しかし、ぎっしりと積んでいるのも確か、おもい(思いや重い)で沈むのも確かだ。舟も母も海に関係あると発想を広げるとさらに楽しそうだ。
漢字のおもしろさは、意味を包含するいうことだ。もっと言うと1字にドラマがある。漢字の特性をわかっておかないと視覚でも連想を伴うので、音だけに頼って名前をつけると変な先入感をもたれる。ビートルズのファンの友人が「美執」と名付けた。言葉が幸せを呼んでくると考える日本だ。漢字を知った上でのネ-ミングとしたい。思えば、この子も35、6になる。「美を執る」から芸術家になれたと信じている。
「初め」と「始まり」の違いも調べていくとおもしろい。「初」は衣へんがあるので布を裁断する、つまり「切りはじめる」イメージがある。一方、「始」は女へんがあるので、「女性になること」、つまり、「成長のはじまり」を意味する。「ある変化がおこりはじめる」ことになる。漢字を研究すると、当時の人の考え方までわかるから不思議だ。「円」という漢字は、貨幣が丸いものが多いということから貨幣の単位として考えられたとか、1ドル=360円は、円の角度から決まったとかとおもしろい話がある。どこまで本当なのだろうか。漢字のなぞはまだまだ深く果てしない。