きばっど ことばの採集箱 R3.11.5
世の中にはキラリとしたすてきな言葉が無数に存在する。いつのころから、それをメモして書き留めておくようになった。これを勝手に「ことば採集」とよんでいる。採集箱にある言葉をいくつか並べてみよう。「あせらず あわてず あきらめず 三反園知事」「言志四録 文 武 農 西郷南州」「君が吹くフル-トに僕は導かれ 夏休み応援の笛よく響き お茶の俳句」「己を尽くして人を育てる 南州翁」「強くなれる理由を知った 鬼滅の刃」 あれこれと、本当にいろいろな言葉を書き留めてしまう。町を歩いても、テレビを見ても、心に残る言葉に出会う。そんな言葉に出会うと、見知らぬ美しい蝶々に出会ったときのようにどきどきする。どうしても自分の手元においておきたくなる。
「折々のことば」という朝日新聞一面にすてきな一文を取り上げて解説する欄がある。ここに並ぶ言葉は実に魅力的だ。作家や政治家、スポ-ツマンの言葉、物語の主人公のセリフまで読み返す度に新しいイメ-ジをわきあがる。「母は舟の一族なのかもしれない」「100冊の読書より一度の恋愛」などは忘れられない一文である。言葉に引かれてなにげなく読み始めると、自然と自分の人生に絡んでくるからおもしろい。言葉の吸引力とでも言いたい。
武田鉄矢さんがある番組で語っていた。「街角で出会った好きな言葉を使うチャンスを自分は探している。」なるほどと聞きながら、その言葉は「送る言葉」にある「くれなずむ」であると知る。実にすてきな言葉である。言葉を探す話はシンガ-ソングライタ-小椋圭さんにもある。「シクラメンのかおり」を思い浮かべると北原白秋の世界から見つけた言葉が多い。九州の柳川出身の白秋は、水郷の町の夕暮れに合う言葉を選んだように使っている。
心の栄養になる歌詞は無数にある。「涙の数だけ強くなれるよ」や「負けないで ほらそこにゴ-ルは近づいてる」などを聴くと不思議と元気が出てくる。フレ-ズに魔力があるのではないかと思える。新古今の和歌ではないが、本歌取りの技法というか、使う言葉に一つの世界がある。その世界の存在を踏まえて使うだから、心に響くはずだ。人は苦しみを何度か乗り越えて強くなる。という前半を「涙」にまとめて、「数」では多さを暗示する。すると、強くなるにがんばりがすっと結びつく。「ゴ-ルまでがんばるように応援する」でなく、「負けないで」とまず励まし、負けなければ、「ゴ-ル近づく」とさらに念を押す。がんばろうという気持ちになる。ただし、「自分自身に負けていけない」と念を押したい。 美空ひばりの「みだれ髪」にある「春は二重にまいた帯、三重にまいてもあまる秋」のフレ-ズにはぐっとくる。大伴家持の恋の歌に「あなたを思ってやせてしまいました」とこの表現は使かわれている。作詞家は知った上で、千年の時をこえた本歌どりである。お見事