歴史感受性
中学生のころ見た映画は本当に印象に残るものだった。「ひまわり」という反戦映画は、冒頭とラストシ-ンにどこまでも続くひまわり畑の映像と悲しいテ-マ曲が流れる。そのシ-ンが今でも鮮やかによみがえる。この映像がウクライナのひまわり畑と聞いて、今更に平和の尊さを考えてしまう。
キングダムを見に行った。1話から見ていることもあり、その流れで映画館に座った。多くのファンとともに「すごい」と思った。音響や映像効果が半端ない。まさに令和の映画である。ムリして表現すれば、「実際よりも実際」こんな言い方がピッタリくる。臨場感なんて言葉は当てはまらない。そこにいる。気を抜くと、剣があたる。矢がとんでくる。思わず、体が固まる。CGと現実が区別できない。大軍の行進や戦闘の始まりなど、大音響が遠慮なく体にまとわりつく。話の内容は、あこがれの王騎将軍が「大将軍とは何か」を主人公「信」に教えるというものだ。後はぜひ劇場でご覧あれ。この話は映画の効果を中心にしたい。(ネタバレしそうなのでこのあたりまで)
昭和の中学生は、当時最先端の70mm「ベンハ-」や「クレオパトラ」の映画にびっくりした。もちろん、世界史では、紀元前が「B.C.」、「クレオパトラはエジプトの女王」と勉強していた。しかし、奴隷が船のこぎ手であり、燃えさかる石を投石器で飛ばし合う海戦があったとか、ピラミッドの傍らを行進するエジプトの女王のパレ-ドがなんと豪華なのだろうと映画で知った。もちろん、キングダムの戦闘シ-ン並の映像を巨大セットとエキストラでやるのだから、どれだけの予算をかけて作ったのだろうか。本当にぜいたくな映画だった。オペラやバレ-の講演が生だとすると、映画は缶詰のようなもの。近頃の映画なら冷凍食品に近い。チンの一発で本当に現実と変わらない世界を体感できる。
クレオトパトラとアントニウスの関係なんて、映画でよくわかった。女王といってもエジプトの歴史では最近の話だと改めて認識した。地中海を舞台に繰り広げられた歴史は、その後のヨ-ロッパ文明に影響を与えたことも理解できた。歴史にはその事件を原点0とする前後の時代が存在する。「マリ-アントワネットの時代」を原点におけば、その母の活躍や、彼女亡き後のフランス変容を知りたくなる。歴史を知る楽しみは、関係づけられる楽しみでもある。その意味で、歴史の扉はどこを開けても面白い。そして、必ずそこから始まるものとそこに至るものがある。せっせと映画を見て、歴史の「0」を学んでほしい。
令和の映画はかなりの精度の高い疑似体験だ。キングダムは漫画で読んだ人も、映画館であの世界を体感してほしい。世界観に距離感と「カン」が問題となる今、映画で感受性を磨きたい。メッセ-ジてんこ盛りの映画を体験、体感して、歴史認識だけでなく、感受性も磨いてみてはどうだろうか。