少しでも温かい話を
12月の声を聞くと、日中も急に寒くなる。伊集院までの通勤で、10月、11月、12月で、14度、7度、4度と車中も冷えていく。12月中旬になると、クリスマスの音楽だけが温かさをもってくるようだ。体が冷える分だけ、毎年のことだが、この時期はついつい温まる話をしたくなる。
「賢者の贈り物」は何回読んでも心を打つ。美しい髪を売り、時計の鎖を、金時計を売り、髪飾りを買う恋人同士。相手を想う気持ちから始まる行為の温かさが伝わるが、役立たない無駄な買い物になってしまう。しかし、その思いには心が温かくなる。クリスマスの「贈り物」には特別な意味合いがあるのだ。
食べ物に関わる話を一つ、ある旅人が不思議な石をもっていると語る。寒空の下、一軒家に今夜の宿をやっと借りた男の話だ。「この石を鍋に入れると不思議とおいしい料理ができるんだ。」興味をもったおかみさん、早速、鍋に水を入れて火をつけた。男はそっと石を鍋の真ん中においた。「ここから大切だからね。よく聞いて…。う-ん、少しだけ塩をもらおうかな」おかみさんは塩を入れた。男は頷いて、「よし、今度は少しだけサトウをもらおうかな」おかみさんはサトウを入れた。「石の力が高まってきた。野菜を少しだけ」と話は続く。おかみさんは野菜を入れた。ここまで来て、男は、「みんなにも食べさせたい。不思議な石の力を見てほしい」と大声で叫ぶと、家から飛び出し、道行く人に石の話をし始めた。みんなは興味津々、鍋に入れてみようと、肉なら少しあるぞ、いやいや、ハムも少しある、オリ-ブオイルも入れたらと、それぞれが少しずつ持ち寄った。鍋は具材でいっぱいになった。不思議な石の力で、おいしい料理が出来たようだ。「さあ、みなさん、持ち寄った分だけは食べてくださいよ」おかみさんは、にこにこ顔でみんなに料理をふるまった。みんな、「おいしい、おいしい 本当に不思議だ。いいクリスマスをありがとう」と喜んだ。明朝、男はおかみさんと息子にお礼を言うと、旅立っていった。不思議な石を息子に渡すと、「みんなの温かい気持ちがおいしい料理を創ったのさ」とにこっと笑った。家の周りを見ると、同じ石があちこちにころがっていた。
みんなの善意がおいしい料理をつくるという「石のス-プ」という話である。鍋物が体を温めるように、話で心を温かくしたい季節にぴったりだ。今まで一番うれしかったプレゼントは何だろうか。過去、現在、未来を垣間見たクリスマスキャロルの強欲な金貸し老人ではないが、齢を重ねるとついつい考えてしまう。クリスマスの「贈り物」を有効に使える未来を期待したい。みんなと喜びを分かち合うことの楽しさを知ることがクリスマスプレゼント。不思議な石を準備して、善意を少しずつ持ち寄れば、きっと世界が平和になり、楽しいクリスマスがやってくるに違いない。そうそう、石はどこにでもありそうだが…。