15の君へ
生徒たちを見ていると、「今 負けそうで、泣きそうで」の歌詞をつい口ずさむことがある。夏の昼下がりは時間を巻き戻す魔法にかかりやすいようだ。歌った合唱曲はなかなか忘れられないもので、ふと、記憶の片隅から鮮やかによみがえる。この「手紙」は、アンジェラアキ作曲で、全国合唱コンク-ルの課題曲にもなった。そうそう「くちびるに歌を」の映画も忘れられない。なにしろ、先生がガッキ-、中学生役に恒松祐里、葵わかなという朝ドラで見かける顔もキャスティグされていた。10年近く前の映画だが、一見の価値はある。映画の中で、先生が「宿題」と言って、未来の自分へ手紙を書かせる場面がある。なかなか書けないし、書いてきた生徒は一人だったと覚えている。しかし、考えてみれば、30歳の自分宛の手紙はおいそれとは書けない。そんな15の夏を思い出してもらうための映画なのである。「手紙」の歌詞を書いておこう。
「拝啓 この手紙読んでいるあなたは どこで何をしているのだろう. 十五の僕には誰にも話せない 悩みの種があるのです. 未来の自分に宛てて書く手紙なら. きっと素直に打ち明けられるだろう. 今 負けそうで 泣きそうで 消えてしまいそうな僕は. 誰の言葉を信じ歩けばいいの?」
さて、こんな15の君へどんな声かけをすればよいのだろうか。答えはこの映画を見たらわかる。ガッキ-演じる臨時の音楽教師は、恋人の死によってピアノが弾けなくなる。母校で音楽教師をしている中学の同級生から頼まれて、いやいや合唱部のめんどうをみる。中学生のひたむきに音楽と向き合う姿に、彼女なりの答えを見つけ出せる。考えてみると、我々教師は何度も15歳を生きているのかも知れない。中3を担任する度に15の自分から手紙をもらっている。30歳の自分(未来)あての手紙という設定だからまたすてきなのだ。それ以外では、手紙を書かせてもあれほど共感することは少ないだろう。
私も未来の自分へ手紙を書かせたことがある。そのころは未来への手紙が流行して、タイムカプセルによく入れられた。今でも小・中学校の校庭には何個埋められているはずだ。その手紙を読み返す機会に巡り会うのはとても楽しみだ。手紙というタイムマシンはどんな自分と会わせてくれるのだろうか。夏の昼下がり、時間をまきもどす。何を語ればいいの?と悩んでいる今を未来の自分に語りたい君、30歳になった私も過去の君に語りたいことはあるんだよ。でも君の語りを聞いて元気が出たよ。手紙があるのは生きた証拠で、手紙を読めるのは生きている証拠だから。自分がかたまらない半熟だから言葉にしたいのだよ。負けそうで泣きそうなのは自分がわからないから、わからないと消えてしまうから。みんなそうだったんだよ。今、手紙をもらったら、そのくらいのことは答えられそうだ。さて、どんな続きを書こうか。?歳の私は