あの手この手
5月の後半になると、生徒たちの迷いの季節が始まる。学校の様子が少し分かり、自分の居場所とか、目標までの距離がわかってくる。そうすると不安になったり、不満になったりする。それがどんな意味をもつのかは当事者になるとなかなかわからない。人生は後でしか答えがでないからやっかいだ。選択するものも一つ二つでない場合も多い。今、決めないと後がないと思うのも思い込みだったりするし、その逆もある。そんな迷いの季節の到来だ。悩んだり、苦しんだりするものは、形にしたり、言葉にしたりすると、結構、思うほどのことでない。自分の位置が見えなくなる時期が新しい世界に入っていく時、必ず出てくる。新人や新入生で言えば、この時期だろう。
そこで、あの手この手が必要である。悩み解決には、本人に話させることが一番の解決方法、そして、だれかが聞いてあげることが一番の解決でもある。まさにそのとおりで、言葉にして、形にすれば、この時期の悩みはほぼ解決することが多い。「進路変更するなら早い方が良い」という考えもあるが、本人のためには、問題を明確化し、解決方法を考えたい。課題は一生つきまとう。つまり、人生のそれぞれのステ-ジには発達課題があるという考え方だ。人は課題を解決しながら生きるといっても過言ではない。今までを振り返ると、その時々のアドバイスが大切だったことに気づく。一人の人間よりも複数がよいに決まっている。あの手この手は、複数のアドバイスと考えてもよいだろう。
そして、品を変えること、これは目標や期待値を調整することだ。自分がめざす「文武両道」の目標が大きすぎる場合は、「宿題を確実にやろう」「授業態度はしっかりとしよう」と目標を細分化してやるとよい。「友達がたくさんできるはず」とか、「好きな部活動で楽しくやれるはず」という希望なら、実現するために「友達をつくるには自分の態度をかえてみよう」「部活動は何をもって楽しいとするのか」と問題を整理し、解決への方法を提示することである。
好きな人から背中を押されて悪い気はしない。先生から認められ、励まされるとうれしくなる。ただし、どの先生に言ってもらうのかはよく見極める必要がある。少なくとも担任、副担は語りたい。担任が語ってほしい先生をチョイスするのも大事だ。まず聞くこと、そして、小さな1歩を発見させることだ。踏み出すのは本人、この5月の語りが、新しい世界での誕生につながる。
出会いは人と人、人と世界の縁をつなぐことである。縁をつなぐために「言えん」関係はよくない。始めに「言葉ありき」がこの世界で生きるための糧となる。その言葉をかけるのは教師の仕事、縁を結ぶために心から生徒に語りかけたい。やがて入学から2月、育英館での誕生を助けるために、今週もあの手、この手を工夫してほしい。