今回の大河ドラマの主人公「栄一」はなかなか達筆だった。知行合一の彼は生きる上での知恵を大切にする人でもあった。慢心しないように生き方を戒めた彼の書と同じ借文で書かれたものがある。「功名は窮中に有り 禍患は常に巧処に立つ」というものだ。成功をいましめ、失敗に備える心構えを鹿児島の書家、堀井鶴畔先生が書かれた。この文言は陸游の漢詩「読史」からである。同じ借文で書いた渋沢に漢学の素養の深さを感じる。さて、彼のこの書は、東京の如水会館にあると聞く。借文こそ違うが、彼は同様なものを数多く書いている。彼を学べば学ぶほど、今でいう危機管理ができる人だ。人生はリスクとの闘いである。コロナ禍で先の見えない現代に彼が生きていたら‥と考えて、ブ-ムなっているのはそのためであろう。「論語と算盤」のネ-ミングも見事だ。
新入生研修会の講話に水泳の宮下選手を登場させたが、タレントの宮下くんが水泳のオリンピアンと結びつくのが生徒にはなかなかだった。時間の関係で取り上げられなかったので、次回は池江選手で「やり抜く力」で再度語ろうと思う。彼女は東京オリンピック予選で4冠に輝き、オリンピックへの切符を手に入れた。彼女の口から出た「努力は裏切らない」は実に重みがある。ごぞんじのとおり、白血病で代表から外れ、闘病生活を送った。病気は克服したが、筋肉は落ち、大会で入賞するレベルにはなかなか戻れなかった。それから1年後、タイムを伸ばし、力をつけて彼女は晴れの舞台へともどってきた。何が彼女を支えて、ここまで押し上げてきたのか。もちろん、彼女の努力である。しかし、人間は弱い、くじけそうになったり、やめようと思ったりしただろう。彼女自身もそう書いている。ずばり、母親の励ましである。
GRITを読むと、親の態度が大きく影響するとある。子供は親のやるとおりにやる。親の言う通りにはならない。里佳子さんの母親はどんな時も「あなたならできる」と励ました。このぶれない態度こそ、彼女のやり抜く力を支援した。ここでもう一人、赤崎勇先生にも登場してもらおう。赤崎先生の言葉に、「あきらめなかっただけだよ」というのがある。自分のことを信じて最後まであきらめない。それが成功につながるということだ。多くの人たちが研究をやめていく中で、自分の可能性をどこまで信じられたのだろうか。自分もできないのではと考えたり、迷ったりしなかったのだろうか。そこがすごい。 やり抜く力については、まだまだ未知の部分が多いものの、研究の成果が大切である。やり通す経験による強化を考えると、渋沢栄一にも赤崎勇にも幼い時にそんな経験があったに違いない。部活動や少年団、勉強以外のことにエネルギ-をむけることがよくないとされる風潮がある。しかし、やり抜く力を育てているのはむしろこれらの活動である。そこでのやり通す経験が「やりぬく力」を育てることにつながっている。特別活動が今こそ必要な理由だ。