きばっど 朝ドラと大河 2019.10.25
NHKの朝ドラは歌謡曲と同じで、ある時代を思い出すのに都合がよい。今日のスタ-トを「もう朝ドラだ」の感覚でとらえている人も多い。平成から令和にかわる朝ドラは「なつぞら」であった。北海道開拓の1世、戦争孤児の「なつ」、テレビアニメの創世という素材を実にうまく料理して楽しませてくれた。
また、NHKも記念番組的な力の入れようで、朝ドラ主演の名優を多数出演させた。まるで1番から9番までイチロ-に打たせるような見せ場だらけのぜいたく三昧の時間だった。どこを見ても主役だらけの朝ドラだった。
戦災孤児の「なつ」は北海道に引き取られ、開拓一世の老人泰樹と会う。多くの人に愛されながら酪農一家で育つ「なつ」は、次第に、アニメに興味をもつようになる。酪農家になるはずで通う農業高校で、初めて演劇と出会う。それがきっかけとなり、創作する楽しさに目覚めた「なつ」は、アニメ-タ-を志す。「なつ」と同じように、戦争で生き別れた兄妹の自分の人生を切り拓く姿を描いていく。なかなか知り得ないテレビアニメ創世記の人間模様を取り上げ、北海道を開拓した人々との重ね合わせていく筋書きは実に見事だ。
北海道で酪農をやることの困難さはなかなか伝わるものではない。修学旅行で生徒がファ-ムスティした農家を訪ねてみて、生き物を飼う大変さをしみじみと思った。その上、冬の寒さのあるこの地で酪農をするのはまさに戦いである。開拓一世の老人が「金をもうけるのでなく、牛といっしょに生きる」「どこにもいかん。この土地に俺はしみこんでいる」と語る言葉は実に重い。北海道に行ってみると、その自然の雄大さと生きる人々の営みに深く感動してしまう。
テレビドラマを見る楽しみは、どんな俳優さんに人気が出るかである。そこには、時代の要請やいろいろな要素がからみ、主役でない脇役こそキ-マンとなるようだ。開拓者1世を演じた草刈さんは大河で真田昌幸を好演した。高畑さんとの夫婦役も絶妙だった。今回の朝ドラにも1世の友人同士の二人が貢献したことは言うまでもない。ここでも主役のわからないドラマだった。
一方「大河」の方だが、戦国や幕末に生き生きと動き回る人間を語る話は楽しい。時代は、主人公に会った人や知る人がいなくなるころがちょうどよい。そう考えると、明治、大正、昭和では、物語になりきらない。
今回の「いだてん」は、日本へのオリンピック誘致をどう実現したかという話だ。大河好きにはたまらない。個人的にはこれまでの中で一番のできだと思う。視聴率は気にしないで、「日本に来る」の意義を考えさせればよい。思えば、1964年のオリンピックもすばらしかった。今回もそれに負けず劣らず、すばらしいと期待は高まる。オリンピック招致に命をかける田畑を演じた阿部さんはすばらしかった。令和元年の「大河」としての役割を十分果たした最高の作品だと思う。