きばっど 山笑う 2019.5.01
この時期の自然の緑には目を奪われる鮮やかさがある。桜の季節から1月もたつと緑の季節がやってくる。山をどのように描くかを表した言葉「山笑う」という春の季語が話題になった。
さて、この季語のイメ-ジは、 新しい草花が芽吹き、うららかな春の日が当たり、山全体にのどかで明るい感じが漂うである。
・故郷やどちらを見ても山笑ふ 正岡子規
夏の山には「山滴る」という季語が使われる。イメージすると、若葉は濃い緑へ変わり、その葉から水が滴るようなみずみずしさをもつ山が浮かぶ。清らかな流れや朝霧などは湿潤気候の日本ならではの山の様子といえるだろう。
・滴りのそばを歩むや鳳来寺 尾花ゆう花
「山粧う」は秋である。秋を歌う唱歌「もみじ」の「濃いも薄いも数ある中に松をいろどる楓や蔦は山のふもとの裾模樣」「波にゆられて はなれて寄って赤や黄色の色さまざまに水の上にも織る錦」は美しく彩られた山の様子を表していて、「山が化粧している」とうなづける。その理由を考えた次の句もなかなかです。・山の神来てゐるらしき山粧ふ 井上 雅
眠るように静まっている、もの寂しそうな冬の山の様子を表すのが、「山眠る」という季語です。冬の山の向こうに春の山の景色を想像している。寒いけれどなぜか温かい。そして、春の訪れを待ち望む次の句はいかがですか。
・日のさせばあたたかさうに山眠る 紺野いつみ
山や海という自然が変わらないのはある意味ありがたい。今回、「令和」の誕生で万葉集を読みたい、知りたい人が増えているらしい。日本人のル-ツを知り、国語の成り立ちにもふれることになるだろう。万葉集の時代を考えると、日本文化はかなりアジア寄りだった。明治になってから西洋に、そして、昭和はアメリカ信仰となる。日本文化は自然との共存が原則だ。自然をコントロ-ルしようという意識はない。自然を変えようとしてきたのはつい最近化のことだ。髪を金髪にし、カラ-コンタクトを入れ、英語を語っても、その精神構造はまだまだアジア系である。自然とのふれあいに感動するのに、なぜそう考えるかをわからない。これから日本をどうするのかを考えるには、今の日本人は何者なのかを議論すべきだ。とりあえず、新しいものを取り入れるときはどうなるかぐらいは考えてみよう。金儲けや便利さやカッコよさで取り入れると取り返しのつかないことになる。大量消費もけっこうだが、リサイクルができるものにしたい。こんな小さいな国の上で捨てる文化を謳歌すればたちまちゴミに埋まる。いつまでも「山笑う」と使える日本でありたい。「山嘆く」や「山泣く」が出てくるような文化を形成してはならない。自然を守るには、万葉の時代の心にヒントがあるようだ。