卒業生からの急なお願いがあった。卒業文集の原稿依頼だ。そこに書いた文言が「人生皆初心者也」である。宮本武蔵の「我以外皆我師也」に似せて「皆初心者」として一文ができた。だからどうしたらよいのかは、「3c」や「向き不向きより前向きに」を交えて語ることにする。
「人生2回目の人?」と手をあげさせて、生徒聞いてみよう。質問が質問だけに、初めはきょとんとしている。くりかえし、「2回目の人、早く手をあげて」と続けると、「2回目なんてあるか、みんな初めてだ」と気づくのにさほど時間はかからない。「じゃどう生きるのか?」と話し合わせてみたらおもしろいだろう。予想されるのは「悔いの残らない」とか、「自分に正直に」とか、そんなところに落ち着くだろう。しかし、大事なのはなんでも挑戦できることだ。
そこで、続けて、「成功は素直に喜び、失敗は次へのステップに」と書いておいた。失敗は当たり前のことで、失敗しても次につながるステップだと考えればよい。なにしろ、初心者だから失敗も恥ずかしくないと生きればよい。成功した時は、素直に喜ぶことだ。大化の改新で知られる中臣(藤原)鎌足もかなり素直だ。恋していた宮中の美女を娶った時に読んだ歌がある。内容は「わたしは安見児を手に入れることができたよ。宮廷の人々が皆望んでも決して手に入れることの叶わなかった安見児をわがものとしたよ。」詞書きや「われはもや」からもその喜びがわかる。大化の改新の中心人物なのに、素直に喜ぶ姿は初心者としてもなかなかすごい。
英語の似ているスペルをまとめて、「かわる」の必要性をとく「3C」がある。「挑戦 かわる チャンス」の文字から作られるプラスのスパイラルだ。挑戦を恐れないというのは初心者の特権だ。ある立場につくはしかたなくにしても、その立場を自分で作り上げていく覚悟があれば、自分が変わるしかない。今のままではだめ、その立場にあう自分にならなくては、その意味では、立場や役割が変わる時が、自分を変えるチャンスなのかもしれない。水泳が不得意だったメダリスト宮下君はいやいやスイミングに通うことになった。この挑戦こそが彼の運命を変えた。だんだん楽しくなってきた。そして、チャンスは巡ってきた。メダリストの一員になれた。初心者だからこそ、挑戦できる。機会はいくらでもある。何にしても遅すぎることもない。
さて、「向き不向きより前向き」の話だが、向きだとか不向きだとかだれが決めるかは自分だ。指導者でもなければ、研究家でもない、まして、自分で、これに向いていない、あれにも向いてないと決めるのはおかしい。まずはやってみよう。挑戦してみると、案外楽しく続けられて、不向きだと思ったことも楽しんでやる自分がいる。そうなればしめたものだ。少々困難でも前向きにがんばればよい。それが3年続けば。あと少しで一人前、もう少し続けると、もうプロの域だ。どんなことも10年続くと、その人のものになる。人生初心者なのだから、失敗を恐れなくてよい、その分、なんでも手軽に始められる。初心者マ-クはついてないけれど、誰もが同じ時代を生きる初心者同士、ぜひとも仲良くやりたいものだ。